【移住者が語る】名古屋から移り住んだ中能登町の魅力
コロナ禍をきっかけに、都心部から地方へと生活の場を移す方が増えつつあります。
自然あふれる地方での暮らしに興味はあるものの、移住後の生活がどのように変化するのか、詳しく知りたいとお考えの方も多いかもしれません。
そこで本記事では、石川県能登地方の中能登町に移住された、画家のたけおまりこ様に、移住に至る経緯や移住後の暮らしの変化など、詳しくお伺いしました。
移住に興味がある方はぜひ参考になさってください。
目次
インタビュイーのプロフィール
たけおまりこ様
1992年生まれ、名古屋出身
2021年6月に、結婚と同時に中能登町に移住
一軒家を購入し、夫と2人で暮らしている
現在は画家として、和紙と天然鉱石を融合させた天然絵画を制作している
2018年8月に、七尾市にて“ノトアフィットネスクラブ”の壁に大作を制作
ニューヨークの展示会、ペルーでのワークショップなど、国内外問わず多角的に活躍中
中能登町をクリエイティブな活動に欠かせない1つの拠点に
移住を考えるようになったのは、どのようなことがきっかけなのでしょうか?
七尾市でのお仕事をターニングポイントに、画家に転向することになったのがきっかけですね。
それが今から5年前なので、2018年頃の出来事です。
もともと名古屋に住んでいたのですが、インスピレーションを得られそうな、自然に囲まれた環境で絵を描きたいと思い、移住を検討しはじめました。
移住を考えはじめた当初は、特に地域を決めていたわけではなかったので、全国あらゆる場所を候補にして家を探していました。
実家のある名古屋から、岐阜、広島、島根、岡山まで、ほかにもいろんな地域を見て回りましたね。
もともと「中能登町」という地域はご存じでしたか?
それが、知らなかったんです。
空き家バンクで、家を探しているときに知りました。
ただ、七尾市でのお仕事のときに食べた石川の味が好きだったこともあり、その後白川郷で食べた味が懐かしく感じられて、石川県内に絞って家探しを始めました。
金沢市よりも上の地域に住みたいなと思っていたので、能登地域を中心に家を探して、中能登を知った、という感じですね。
移住する前の中能登町には、お試し移住体験の制度がまだ整っていなかったので、実際にそこでの暮らしを体験してから決めたわけではないんです。
移住先の候補に決めてから何度も通って、町の雰囲気に触れ、土地の食べ物を味わい、気に入る空き家が見つかるのを待って、やっとそれが見つかり、今に至ります。
中能登町以外で検討していた移住先はありますか?
県外では探していなかったので、七尾市や能登島、能美市などが候補でした。
そのうえで、空き家の雰囲気も見つつ、実家のある名古屋への利便性も考えて探しましたね。
今後もクリエイティブに活動していくことも考えると、1つの町だけで完結させたくないと思っています。
海外にも行きたいので、「一点集中!」というつもりは、まだありません。
いろんな人と出会って、いろんなことを知って、まだまだ吸収したいと考えています。
その1つの拠点として、今は中能登町に住んでいます。
能登のなかでも中能登町を選んだ理由はありますか?
たくさんの地域を見て回って、中能登町に住んでいるのは、“住みたい家が見つかったから”に尽きますね。
実は、移住先の家を探しているときに、お試し移住体験で他県に住んだことがあるんです。
すごく気に入ったので、「ここに住みたい!」と思って、本格的に家を探し始めたら、そもそも空き家がないって言われてしまって……。
「お試し移住を受け入れているのに、どうして家がないんだろう……」って、正直なりましたね。
能登地域のほかの移住者の方とお話ししたときも、「やっぱり、家大事だよね!」で盛り上がったくらいです。
どれだけその地域を気に入っても、家がないと住めないので……。
家探しに役立つ空き家バンクも、得られる情報が町によって違っていて、実際、家の外観が気に入って内見に行ってみたら、「改修が必要だね……」というケースもざらにあります。
今の家は、たとえ部屋の修理が必要だったとしても、何とか自分たちで直して住みたいと思うほどに外観が素敵で……(笑)
住む家があることに、感謝したいと思います。
現在のお住まいは、どのような雰囲気ですか?
わたしたちが住んでいる家は、「あずまだち」とよばれる、伝統建築で作られています。
北陸ならではの外観で、風情があってすごくかっこいいんです。
「あずまだちの家っていいよね!」と夫とも話していたので、見つけた瞬間はもう一目惚れでした。
ただ、家の中は修理が必要で、キッチンは大工さんに修理してもらいましたが、暖房工事までは手が回っていないので、冬はとにかく寒いです。
今は寝る部屋にだけ、断熱材を敷いたり、プチプチを窓に貼ったりして、寒さ対策をしています。
家の中に、囲炉裏はあるんですが、前に住んでいた方が、囲炉裏を使わなくなったので、天井を新たに作ってあります。
もう1回使うときは、その木を取り外す改修工事が必要ですし、そうすると天井が空いて冬は寒くなるので、結局まだ着手はしていません。
囲炉裏を使うとなると、さらに大きな決心が必要そうです(笑)
移住に際して、必要な情報はどのように集めたのでしょうか?
基本的には、住みたい町のホームページや空き家バンクですね。
ほかにも、いろいろなサイトに目を通して、どの地域に空き家がたくさんあるのかを調べました。
移住を推進しているわりに、空き家が全然ない地域もあるんです。
移住先探しは結局のところ、その地域に家があるかどうかに尽きるかなと思います。
移住前に住んでいた名古屋と中能登町では、どのような違いを感じますか?
もともと名古屋の都市部に住んでいたので、何もかもが全然違います。
名古屋だと、コンビニに歩いて行けて、家と家の距離が近くて、地下鉄も通っていて、歩いていたらすぐに人と会うのが当たり前でした。
その点、中能登町だと、夜になったらなかなか人に会わないですし、車も少ないです。
今まで当たり前だったことが180度ガラッと変わったので、名古屋に戻るとすごく新鮮な気持ちになります。
先日も、用事があって家電量販店に行ったら、19時で閉店していて……。
都会と比べると、やっぱりお店が閉まるのが早いので、1日を計画的に過ごす必要があるかなとは思います。
24時間空いているスーパーもあるんですが、車を走らせないといけないので……。
わたしは、絵の制作のしやすさを優先して田舎に移ったので、都会が嫌いなわけではありません。
都会と田舎の両方の暮らしを体験したからこそ、どっちもいいなと楽しんでいます。
古民家に憧れて移住される方もいると思いますが、続かない方が意外と多いように感じます。
いざ古民家に住むと、虫はいっぱい出ますし掃除する場所は多いし、冬は寒いしで、憧れとのギャップは激しいです。
ただ、古民家は良い木を使っているので、そのナチュラルな感じに包まれて暮らしたいと思う方や、丁寧な暮らしをしていきたい方には、すごく向いていると思います。
移住するにあたって、特に大変だったことは何ですか?
わたしたちの場合は、水回りの改修工事の前に住みはじめてしまったので、しばらくは水道が使えない生活でした。
あとは、耐震構造なのかどうかがわからなくて、その確認にも時間がかかりましたね。
ちなみに、友人の家は、畳をめくったら白アリに侵食されていたらしいので、それを聞いたときにわたしたちはすごくラッキーだったなと思いました。
なので、空き家を探すときは、地盤や床下もそうですが、畳の下も確認したうえで、検討するのがいいと思います。
移住してから、まず何から手をつけましたか?
まずは、家の中の掃除です。
ほとんどの空き家は、何年間か人が住んでいない状態なので、改修工事が必要な場所があったり、住めるように掃除したりしないといけないんです。
わたしたちの家は、水道管が使えない状態だったので、水道工事を依頼しました。
あとは、井戸水が引いてあったので、保健所にその井戸水が飲めるかどうかの調査もお願いしましたね。
まだまだ改良する余地はありますが、大体住めるようになるまでにざっくり3か月くらいかかったと思います。
中能登町はとても人が温かく、絵の制作に適していた
移住にあたって、支援金制度や補助金などは活用しましたか?
使えるものは使ったと思います。
ただ、自分たちが使える制度がわからなかったので、町の企画課に行って相談しましたね。
たとえば、家電を購入した費用が返ってくる「結婚新生活支援事業補助金」や、空き家の改修費を支援してもらえる「中能登町空き家等改修支援補助金」などの制度です。
聞きに行った日に資料をすべていただいて、書類の出し方から費用を受け取れる日にちまで詳しく教えてもらいました。
右も左もわからない状態だったので、とても助かりました。
地域の方たちとのつながりやコミュニティは、仕事以外の場面でも生まれましたか?
七尾市のほうに知り合いがいたので、「改めて、よろしくお願いします!」というお引っ越しパーティーなるものを開催しました(笑)
地域の方々とは、家の近くにある神社の方に、一緒に集まってご飯を食べる機会を作ってもらったのをきっかけに、ご縁が広がったかなと思います。
今では、本当にありがたいことに、夜ご飯を一緒に食べるお友達もできました!
あとは、たまたま出会って、仲良くなったとかもありました。
あえて交流の場に足を運んだわけではなくて、自然とそうなっていましたね。
移住前に思い描いていた移住生活は、移住後にギャップはありましたか?
温かくて面白い方がたくさんいらっしゃるなと実感しています。
あとは、価値観が一緒な方や、同じものを好きな方が多いのもうれしいです。
価値観が合って仲良くしてくれる人が周りにいるのは、すごく恵まれていますよね。
自分が好きだと思って話していたことが、実は相手の方も好きだった、みたいな共通点があると、ありがたいことだなと感じます。
中能登町の環境に惹かれての移住でしたが、移住後は画家のお仕事も引き受けているのでしょうか?
ありがたいことに、2022年から何本かご依頼をいただいています。
とはいえ、移住当初から順風満帆だったわけではありません。
実は、移住したての頃に、展示会をさせていただいたことがあるんです。
そのときは、物珍しさから「画家ってなんだ?」「転校生が来た!」みたいな空気感で、それがちょっと辛辣に感じてしまって……。
地元で画家を続けていたら、知り合いがいるので展示会に来てくれる人数も多いですし、こんな思いをすることもなかったかもしれません。
そこで、中能登町での画家の道を諦めることもできましたが、違う土地で頑張りつづけたからこそ、新しい出会いが生まれて、今はその出会いに支えられています。
自分なりに続けていたら、自然とかたちになっていましたね。
今となっては「あのとき、めげずに踏ん張って立ち向かえてよかったなあ……」と思います。
普段はどのような一日をお過ごしですか?
会社員として働いていた時期もありますから、自分の時間をできるだけ有効に使えるように、基本的には朝早く起きて、夜は早く寝る生活です。
思い返すと、ほとんど仕事していますね(笑)
絵を描いたり、打ち合わせをしたりが主かなと思います。
5時半~6時半くらいに起きて、30分~1時間ほどは自分の時間として心身を整えています。
7時半くらいから朝ご飯を食べたり食べなかったりして、そこからは仕事の時間です。
最近だと、Tシャツに絵を描かせていただいています。
依頼者さんのイメージに合わせて絵を描いているんですが、わたしが思っているよりも喜んでいただけているみたいなんです。
そういう連絡をもらえると、改めて「やりがいがある仕事をさせてもらえているんだな……」と実感します。
基本は絵の制作がメインで、イベントの打ち合わせやZoomをつなぎながらのセッションなども行っていますね。
展示会が近いときは、ご飯を食べることも忘れるくらいに、絵に没頭する日もあります。
「能登に移住してよかったな」と思える瞬間はどんなときですか?
「これだ!」っていう瞬間はないんですが、寝る前にふと思うことがあります。
「都会と比べたら、空が広くてきれいだな~。自然に囲まれていてありがたいな~。やっぱりいいところだな~」という感じで……(笑)
住んでいる人が多いと流れる時間も違うので、中能登町は作品を作るうえではすごく適している場所だと思います。
制作することは自分と向き合うことなので、そういうときに生まれる作品が真実だったり、とても深いものだったりするんです。
だからこそ、自分と向き合える時間をたくさん確保できるこの町では、制作も捗っています。
都会と比べると田舎ですから、物が手に入りにくい不自由さはもちろんありますが、手に入りにくいからこそ得られるものがあるんだと実感しています。
あとは、本当に何でもおいしいです。
農家や漁師さんからそのまま手に入るので、おいしい野菜や魚が食べられるのは、すごく恵まれているなと思います。
自分に合う町を探すためには、足を運んで理想と現実のギャップを埋めること
今後も移住を検討される方が増えてくるかと思いますが、新たな移住希望者に向けてメッセージをお願いします
わたしから言えることとしては、絶対に移住を検討している場所に足を運ぶことですね。
思い描いていた理想と現実のギャップがあると思いますが、そこをいかに自分が受け止められるかが重要だと思います。
自分がイメージする理想の生活をどれだけ叶えられるか、そのうえでどれだけ幸せになれそうかを見極めてみてください。
どの地域でも一緒だと思いますが、「田舎だから大丈夫!」なんてことはありません。
どれだけ第三者におすすめされた地域だとしても、それぞれの地域で相性がありますから、「住んでみたら、まったく合わなかった……」みたいなこともあり得るものです。
自分には合っていないなと思ったら、また別の場所を探せばいいんです。
メディアやインターネットでは、いろんな情報が流れていますが、結局は行って、住んでみないとわかりません。
だからこそ、お試し移住体験などを利用して、少しでもその地域の空気を感じてから家を選ぶべきだと思います。
中能登町を中心に、自分の作品で日本の良さを海外に広げたい
たけお様が思い描く、今後の展望を教えてください
すでにお仕事はいただけていますが、今後も中能登町で芸術のお仕事をしていきたいです。
最近のご要望を受けて、子どもから大人まで、さまざまな方が参加できるような、絵を描けるワークショップをまずは開催したいと考えています。
あとは、中能登町を拠点に、海外にも進出していきたいですね。
日本の文化の一つである、絵を描くときに使う和紙や金箔などの材料の美しさが、もっと世界に伝わればいいなと思っています。
わたしの絵を通して、繊細な日本人の心のなかでも、さらに深い和の心を、いろんなところにつなげていきたいです。
時の流れをゆったりと感じられる中能登町は、絵の制作にぴったりの町
いかがでしたでしょうか?
今回は、能登地方へ移住された方のお一人、画家のたけおまりこ様にお話をお伺いしました。
会社員から画家への転向をきっかけに移住を考えはじめ、さまざまなご縁をきっかけに中能登町を移住先に選ばれました。
今後のクリエイティブな活動のための拠点の一つではあるとのことですが、中能登町を中心に、国内から世界へと作品が広がっていくことを願っております。
のと住。では、能登への移住者のインタビューを掲載しています。
能登地方への移住をお考えの方に、能登地域の特色などの情報発信を行うとともに、移住に際しての準備などの相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。